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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)7204号 判決

原告

坂田鉄夫

右訴訟代理人

木村保男

外五名

被告

右代表者法務大臣

古井喜實

右指定代理人

平井義丸

外五名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、金二四五八円と、これに対する昭和五二年一二月二五日から支払いずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  被告

主文同旨と、担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告の地位

原告は、昭和五一年一二月七日、大阪高等裁判所で、暴行、道路交通法違反罪により、懲役四月に処せられ、右判決は、同月二二日、確定し、原告は、同月二三日から昭和五二年一月一九日まで、大阪拘置所で、同月二〇日から同年四月二〇日まで、京都刑務所で、それぞれ服役し、同月二一日、刑期満了により、右刑務所を出所した。

2  本件決定

原告は、京都刑務所に服役中、別紙第一表記載のとおり、刑務作業に従事した。

訴外京都刑務所長は、右作業に対し、同表記載のとおり、合計金四二八四円の作業賞与金給付決定(以下、本件決定という)をし、原告は、出所の際、右金員を受領した。

3  本件決定の違法性

京都刑務所長の行つた本件決定は、次に述べるとおり、違法である。

(一) 本件計算規程の違法性

(1) 原告に対する作業賞与金は、監獄法二七条、同法施行規則七一条、作業賞与金計算規程(法務省訓令昭和三〇年六月二七日矯正甲第八一〇号、一部改正昭和五一年五月八日法務省矯正訓令九一二号・以下、本件計算規程という)に基づき支給されたが、その計算のための基準となる就業時間一時間当りの金額(以下、本件基準額という)は、本件計算規程に基づき、訴外法務大臣が決定した。

(2) 作業賞与金は、監獄法上、受刑者の勤労意欲を高めるとともに、釈放後の更生資金となることは勿論、在所中には、受刑者がこれにより、被害者に対する賠償や留守家族の生活扶助をしたり、自分の勉学の必要品を購入することなどを予定して、受刑者に支給される金員である。

(3) 被告の法務省は、現在、監獄法改正作業を進めているが、その改正の基本方針を示した同省矯正局編資料監獄法改正(以下、本件資料という)は作業賞与金が前記目的、機能を果たすことを予定して支給されるべきであるとし、その基準額は、作業の種類及び内容により、同種作業に対する一般社会における賃金等を考慮して、法務省令で定める金額を基準とする旨の見解を述べている。

これに加えて、監獄法施行規則七一条、七六条も、作業賞与金が前記目的、機能を果たすことを予定しているというべきである。

このように、被告自ら、前記のとおり、作業賞与金について、改正の方向づけをし、現行監獄法規にも、これにそう規定があるから、被告は、作業賞与金について、右改正の方向にそつて、現行監獄法規の解釈、運用を行うべき義務があつた。

そうすると、被告は、作業賞与金が前記目的、機能を果たすことが可能なように本件基準額を定めるべき義務があつた。

(4) 仮にそうでないとしても、前記のとおり、監獄法施行規則七一条、七六条の規定がある以上、被告は、両条を十分活用し、作業賞与金が前記目的、機能を果たすことが可能なように、本件基準額を決定し、少なくとも、一般社会の名目賃金指数の上昇率に見合うように、積極的にこれを改訂すべき義務があつた。

(5) 被告は、同第二表記載のとおり、昭和三〇年度から昭和五二年度までの期間に、順次、基準額を改訂してきたが、その基準額自体、著しく低額であり、その上昇率を一般社会の名目賃金指数のそれと比較しても、昭和三〇年度から昭和五〇年度までの二〇年間に、後者は、約9.6倍になつたのに、前者は、第一類一等工についてみても、約6.1倍になつたにすぎない。

このような低い基準額の上昇率によつては、現行監獄法規が作業賞与金に予定している目的、機能を果たすことは到底不可能である。

(6) 法務大臣は、これを知りながら、裁量権を濫用し、漫然と低い上昇率の割合による基準額を決定するにとどまり、積極的に、これを一般社会の名目賃金指数の上昇率に見合うように改訂しないまま、放置した。

したがつて、本件基準額、ひいて本件計算規程は、監獄法二七条、同法施行規則七一条、七六条に違反し、ひいて憲法一三条に違反する違憲・無効な規定である。

(7) 京都刑務所長は、本件計算規程が違法であることを知りながら、これに基づき、本件決定をした。

(二) 本件決定の違法性

(1) 仮に、本件計算規程が違法でないとしても、京都刑務所長は、本件計算規程に基づき、作業賞与金を決定する義務があつた。

(2) 原告は、前記2のとおり、昭和五二年一月二一日から同月三一日までの期間(以下、一の期間という)に四七時間、同年二月一日から同月九日までの期間(以下、二の期間という)に五六時間、いずれも見習工として、本件計算規程第二類に属する紙袋糊付作業に従事し、一の期間について金七五円、二の期間について金五六円の各作業賞与金給付決定(以下、一決定、二決定という)をえたが、その金額は、一、二決定とも、右作業の見習工の基準額であつた一時間金二円の割合による金額を下回つて計算されている。

(3) したがつて、一、二決定、ひいて本件決定は、本件計算規程に違反し、違法である。

(4) 京都刑務所長は、そのことを知りながら、本件決定をした。

4  責任原因

京都刑務所長は、被告の機関として、故意に違法な行政処分をしたから、被告は、国家賠償法一条に基づき、原告の被つた損害を賠償する責任がある。〈以下、事実省略〉

理由

一請求原因1、2の各事実は、当事者間に争いがない。

二本件計算規程の違法性について

1  本件資料について

(一)  原告は、本件資料は、被告の監獄法改正の基本方針を示すものであり、これによると、作業賞与金は、その主張の目的、機能を果たすことが予定されており、監獄法施行規則七一条、七六条も、これを予定しているから、被告は、右改正の基本方針にそつて、監獄法規を解釈、運用し、これが可能となるように本件基準額を決定することは勿論、一般社会の名目賃金指数の上昇率に見合うように、積極的に本件基準額を改訂すべき義務があつたと主張している。

本件資料が、被告の監獄法改正の基本方針を示すものであるかどうかについての判断はしばらくおき、原告は、本件資料の存在を根拠として、本件損害賠償請求訴訟を提起していると解されるところ、法務省矯正局が昭和五二年一一月二日、本件資料を公刊したことは、当裁判所に顕著な事実である。

ところで、原告が本件作業に従事し、本件決定を受けたのは、同年一月から同年四月までの期間であるから、本件決定当時、未だ、本件資料は公刊されていなかつた。

そうすると、本件決定当時、法務大臣には、本件資料の存在を前提とする義務は発生していなかつたと解するほかはないから、本件資料の存在を前提として、本件決定当時、本件基準額を決定すべきであつたとする原告の主張は、その余の点について判断をするまでもなく、理由がない。

(二)  もつとも、法務大臣が昭和五一年三月二七日、法制審議会に対し、監獄法改正の骨子となる要綱を示すことを諮問し、同時に、審議の参考に供する趣旨で、四七頁にわたる監獄法改正の構想を示したこと、本件資料は、右審議会における審議の参考のため、法務省矯正局から提出した資料等を取りまとめて公刊されたものであること、未だ、その答申はなされていないことは、当裁判所に顕著な事実である。

このように、右審議会は、改正の骨子となる要綱を審議しているにすぎず、しかも、未だ、答申すらなされていない段階で、審議の参考のための資料を根拠にして、被告が原告主張のように、現行監獄法規を解釈、運用すべき義務を負うと解することは相当でないから、これに反する原告の主張は理由がない。

(三)  なお、原告は、本件資料は、作業賞与金について、その主張の目的、機能を果たすことを予定しているから、被告に対し、これが可能なように、本件基準額を決定するべく義務づけていたと主張し、〈証拠〉によると、本件資料は、報奨金について、「報奨金の額は、作業の種類及び内容により同種作業に対する一般社会における賃金額等を考慮して法務省令で定める金額を基準とし、本人の作業成績及び就業態度その他の事情を参酌して定めるものとする。」(35作業収入及び報奨金・構想細目第二項)とし、「報奨金は、計算高として記録し、釈放の際、本人に支給するものとし、本人が死亡したときは、その遺族に支給するものとする。ただし、受刑者の処遇上適当と認めるときは、本人収容中、その報奨金計算高の全部又は一部の使用を許すことができるものとする。」(同第三項)と規定していることが認められる。

右事実によると、本件資料どおり、監獄法が改正された場合、被告は、第二項に基づき、作業の種類及び内容により、同種作業に対する一般社会における賃金額等を考慮して、その基準額を定める義務はあるというべきであるが、前記のとおり、本件資料を根拠にして、現行監獄法規を解釈することは相当でないばかりか、一般社会における賃金額等を考慮して定められた基準額が、直ちに、その主張の目的、使途と結びつくと解することはできない。

そして、第三項も、報奨金について、釈放時給与の原則を維持するとともに、在所中でも、受刑者の処遇上望ましい場合には、計算高の全部または一部について、その使用を認めることを考慮する必要があることを規定するにとどまり、その基準額については、何ら触れていないと解するほかはない。

そうすると、本件資料の両項は、作業賞与金について、その主張の目的、機能を果たすことを予定していると解することはできないから、被告は、これが可能なように本件基準額を決定すべき義務があつたということはできない。

そのほかに、前掲〈証拠〉を仔細に検討しても、本件資料が作業賞与金について、その主張の目的、機能を果たすことを予定し、被告に対し、これが可能なように本件基準額を定めるべき義務を課していたことは認められない。

(四)  このように、本件資料を前提とする原告の主張は理由がない。

2  監獄法施行規則七一条、七六条について

(一)  原告は、さらに、監獄法施行規則七一条、七六条は、作業賞与金がその主張の目的、機能を果たすことを予定しているから、被告は、これが可能なように、本件基準額を決定すべき義務があつたと主張している。

しかし、同法施行規則七一条は、同法二七条三項を承けて、作業賞与金額を計算する際、斟酌すべき事項をさらに具体的に規定したにすぎず、作業賞与金の目的、機能については何ら触れていないと解するのが相当である。

また、同法施行規則七六条は、釈放時給与を原則とする作業賞与金について、在所中に給与できる場合があること、その正当な使途を具体的に例示するとともに、その限度について規定したにすぎないと解すべきであり、作業賞与金の目的、機能については、同様に、何ら触れていないというほかはない。

(二)  もつとも、作業賞与金は、在所中は、計算高として記録されるにすぎず(同法施行規則六九条、七四条)、釈放時給与を原則としている(同法施行規則七五条)ことに鑑みると、監獄法は、作業賞与金は、受刑者の釈放直後の当座の生活費、更生資金の一部として活用されることを期待していると解すべきであるが、被告において、このような釈放後の受刑者の生活、更生の手助けをどうするかは、在所中の作業を通じての受刑者の矯正処遇、これに対する恩恵的給与としての作業賞与金の金額をどのようにするかとは、自ずから、別個の問題であり、原告主張のように、両者を直ちに結びつけて、作業賞与金が釈放後の受刑者の生活、更生に十分なように、本件基準額を決定すべき義務があつたと解することはできない。

釈放後の受刑者の社会復帰については、監獄法、同法施行規則各一二章に規定があり、同法七〇条、同法施行規則一七一条、一七二条は、釈放時の帰住旅費、衣類支給義務、同法施行規則一六八条は、釈放後の保護関係事項の調査義務、同法施行規則一六九条は、必要がある場合、公務所または保護引受人への意見通報義務を被告に対し、いずれも負わせている。そして、更生緊急保護法は、監獄法とは別に、被告に対し、その責任において受刑者の更生に必要な限度において更生保護義務を負わせている。

このように、現行法上、受刑者の帰住を促進し、その更生を図る種々の措置、制度があり、作業賞与金は、その一補助手段にすぎないと解されるから、これですべて賄うべきであるとはいえない。

(三)  また、受刑者の服役により、その留守家族の生活に問題を生ずることがあるとしても、それは、別個の問題であつて、受刑者の矯正処遇、作業賞与金の目的、機能と直接関係はない。

(四)  さらに、被害者に対する賠償は、あくまでも、受刑者と被害者の民事上の損害賠償責任の履行の問題であり、受刑者がその意思に基づき、その与えられた作業賞与金の一部を、同法施行規則七六条一項により、右損害賠償金の一部に充てることは自由であるが、そのことから、直ちに、被告に対し、作業賞与金がこれに十分なように、本件基準額を決定すべきであつたと要求できる筋合いはまつたくないというべきである。

(五)  このように、同法施行規則七一条、七六条を根拠とする原告の主張は理由がない。

3  憲法一三条について

原告が、憲法一三条に基づき、被告に対し、直接、個々具体的に、作業に対する何らかの給与を請求する権利があると解することはできないから、この主張は理由がない。

4  本件基準額について

刑務作業は、懲役受刑者にとつては、刑の執行そのものであるから(刑法一二条二項)、受刑者には、本来、これに対する何らかの給与を請求する権利はないというべく、作業賞与金は、作業奨励という刑事政策上の考慮に基づき、その作業収益、生産性とは無関係に作業従事者に対し、一定の基準に従つて過不足なく、恩恵的に与えられる国家財産の公法的な配分であり、作業収入とは独立した予算に基づく独立した支出であると解すべきである。

したがつて、その基準額の定め方及びその範囲内における作業賞与金の具体的決定方法は、あくまでも、被告の立法政策の問題であり、法務大臣が刑事政策上の目的を勘案しつつ、その許された予算の枠内で、過不足なく一定の基準で、受刑者に支給されるように決定すれば足りるというほかはない。

被告が昭和三〇年度から昭和五二年度までの期間に第二表記載のとおり、順次、基準額を改訂してきたこと、昭和三〇年度から昭和五〇年度までの二〇年間に、第一類一等工の基準額は、約6.1倍になつたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によると、同期間に、一般社会の名目賃金指数は、約9.6倍になつことが認められる。

ところで、前記第二表によると、同期間に、その基準額は、約六ないし一八倍に上昇していることが認められ、その全体を比較すると、その上昇率は、一般社会の名目賃金指数のそれと比較して、著しく不合理であるとは到底いえない。

そして、被告が、同表に記載された改訂にとどまらず、頻繁に、その基準額を改訂してきたことは当裁判所に顕著な事実であるから、原告主張のように、法務大臣がその裁量権を濫用して、基準額の改訂を漫然と放置してきたとはいえないことは明らかである。

5  結び

本件基準額に、原告主張の違法性は認められないから、本件基準額、ひいて本件計算規程が違法であることを前提とする原告の請求は、その余の点について判断をするまでもなく、理由がない。

三本件決定の違法性について

1  原告が一の期間に四七時間、二の期間に五六時間、いずれも見習工として、本件計算規程第二類に属する紙袋糊付作業に従事したこと、京都刑務所長は、一の期間について、一決定、二の期間について、二決定をしたこと、本件基準額中、右作業の見習工の基準額は、一時間金二円の割合であつたこと、一、二決定とも、右基準額の割合による金額を下回つて計算されていること、以上のことは当事者間に争いがない。

2  基本月額とその減額について

(一)  原告は、右各決定は、基準額の割合のよる金額を下回つて計算されているから、明らかに違法であると主張するが、監獄法、同法施行規則、本件計算規程を仔細に検討しても、原告主張のように、基準額の割合による金額を下回つて計算することが、直ちに違法であると解することはできない。

(二)  かえつて、〈証拠〉によると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 作業賞与金の計算は、一月ごとに行われ、就業者の等級にしたがい、基準額に、当該月において就業した時間数を乗じて得た金額を基本月額とする(本件計算規程四条一項)。

(2) 等級の決定、作業賞与金の加算又は減額等の審査は、主管課長及びその他所長の指名する職員が、毎月一回以上、定期に行うものとし、所長は、この審査のための細則を定めなければならない(同六条一、二項)。

(3) 所長は、行状の不良な就業者に対して、基本月額の一〇〇分の三〇をこえない金額を減額することができる(同七条三項)。

(4) 所長は、正当な理由がないのにもかかわらず、作業成績が上がらなかつた者に対し、基本月額の一〇〇分の五〇をこえない金額を減額することができる(同一一条)。

右の事実によると、作業賞与金の計算の基準は、基本月額、すなわち、基準額に、当該月の就業時間数を乗じて得た金額であり、この基本月額は、同一等級者には、その就業時間数に応じて、一定の割合で与えられること、しかし、基本月額は、一定不変ではなく、本件計算規程上、所長は、就業者の行状不良を理由として、その一〇〇分の三〇まで、また、作業成績不良を理由として、その一〇〇分の五〇まで、いずれも減額することが認められているというべきである。

そうすると、行状もしくは作業成績、又は、両者を理由として減額された結果、その計算高が基本月額を下回ることは、本件規程上、当然予定されているというほかはない。

3  本件決定について

(一)  1の当事者間に争いがない事実や、〈証拠〉を総合すると、原告が従事した紙袋糊付作業の数量科程は、二六五枚であつたこと、その基準額は、一時間金二円の割合であつたこと、原告は、一の期間については四七時間(就業時間合計は、四七時間四五分・うち四時間は、作業教育時間)、二の期間については五六時間(就業時間合計は、五五時間三〇分)、右作業に従事し、同第三表記載のとおり、科程を達成したこと、原告は、昭和五二年二月一一日、訓戒処分を受けたこと、審査会は、一の期間について、同月七日、一決定をしたこと、二の期間について、同年三月七日、二決定をしたこと、以上のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(二)  〈証拠〉によると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 京都刑務所における行状による加算並びに減額の基準は、同第四表一記載のとおりであり、数量科程作業に従事する者の作業成績による加算並びに減額の判定基準とその率は、同表二記載のとおりである(京都刑務所作業賞与金計算規程施行細則一〇条)。

(2) 行状不良による減額については、懲罰に処せられたときは三割、訓戒に処せられたときは二割以下の減額、ただし、特に重いものについては三割の減額とし、この減額は、当該月分のうち、審査の日までに処分があつたものについて行い、審査の日までに処分がなかつたものについては、処分があつた日の属する月において行う(作業賞与金計算規程施行細則の運用について・第二項)。

(三)  そこで、前記(一)の事実に、同(二)の事実を適用して、本件決定が相当であつたかどうかについて検討する。

(1) 一決定

(イ) 基本月額 九四円

2円×47=94円

(ロ) 生産高 七四二枚

265枚×2.8=742枚

(ハ) 総合割数        五割

(ニ) 作業成績による減額 18.8円

減額率  一〇〇分の二〇

94円×0.2=18.8円

(ホ) 計算高 七五円

94円−18.8円=75.2円

本件計算規程一三条により、円未満四捨五入。

(2) 二決定

(イ) 基本月額 一一二円

2円×56=112円

(ロ) 生産高 五八三枚

265枚×2.2=583枚

(ハ) 総合割数        三割

(ニ) 作業成績による減額 44.8円

減額率  一〇〇分の四〇円

112円×0.4=44.8円

(ホ) 行状による減額 11.2円

減額率  一割

112円×0.1=11.2円

(ヘ) 計算高 五六円

112円−44.8円−11.2=56円

(四)  結び

このように、原告の作業等級、作業成績、行状に基づき計算した結果は、一、二各決定と一致するから、京都刑務所長のした右決定は、相当であつたというべきであり、同所長が、基本月額を下回つて計算したことには違法性は認められないから、一、二各決定が違法であることを前提とする原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない(なお、原告は、電気コイル巻作業に従事したことに対する作業賞与金給付決定については、その違法性を主張していないいので、この点については判断を要しない)。

四結論

以上の次第で、原告の本件請求は理由がないから、失当としてこれを棄却することとし、民訴法八九条に従い、主文のとおり、判決する。

(林繁 和田朝治 播磨政明)

別紙第一表、第二表〈省略〉

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